緯度経度

びわこ地球市民の森、旧野洲川南流跡の公園である。浜街道JAおうみんちのところから、北北西に向かっていた跡地が北へ向きを変える、まさにその現場である。大まかにいえばヨシが生えているところが流れのあと。真正面に三上山が見える。右側から画面奥を横切る森はいったん平坦化された跡地を公園化する時点で植え付けられたもの。
その森の中を細い小道が続いている。見通しは一切ない。と、前が明るくなって前方に三上山が現れた。緩いカーブ、穏やかな勾配。北陸線の旧柳瀬トンネル付近の廃線跡を思いだした。一つの風景ではある。これを標題写真にしようかと考えたが、なんとなく踏ん切りがつかない。何かが物足りないのである。といって毎日の写真をそこまで吟味しているわけではないのだが。
あれこれ考えているときに、昔撮った1枚の写真を思い出した。旧北流の右岸堤防上、旧中主町井口付近との記憶はあるが、じゃそれがどこだったかといわれると答えられない。「ここだ」という決め手がないのである。そうこうしているうちに堤防は平坦化されてしまった。そのあとを歩いてみた。どうもこのあたりらしいという場所は見つかった。山のつながりも見える。しかし肝心の元の写真は三上山が見えるだけ。比較のしようがないのである。いい写真であっても、周りのつながらない写真は後に続かない。大げさな言い方をすれば、歴史的価値を持たない。
その点、標題写真は左へ続く山並みが見える。もしこのあたりから撮影された昔の写真が出てきた場合、両者を比較すれば、その写真の撮影場所が特定できる。お前が死んだら標題写真の撮影場所が分からないくなるじゃないか。そう、すべての人間は間違いなく死ぬ。そのための緯度経度(三上山からの距離・方位)である。
写真ステージ 「近江富士」
■近江非名所全集
■滋賀を歩けば

