最後の一枚

結局、三途の川は渡らず、1号バイパスの側道を三上山を背にして歩く。少し向こうの十二坊の麓は夕日が鮮やか。さっきの場所ではちょっとも照らなかったのに。とぼやきつつ、車を置いた場所へと農道を曲がったとたん思いがけない風景が飛びこんできた。何本か並んだビニールハウスの端面が淡い光を返している。その光の表情はいかにも秋の夕方だった。
あれは白籏史朗だったか。撮影を終えるとき、必ず1枚だけフィルムを残しておくという。家へ帰りつくまで何が起こるかわからない。予定外の風景が現れたときのためだという。デジタルになってこの感覚はなくなった。仮にメモリーがいっぱいになっても、要らないものを消せばよい。”最後の1枚”、久しぶりにこの言葉を思いだしたひとときだった。
写真ステージ 「近江富士」
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