一陣の風

厄介なのろのろ台風。一夜明けてもまだ金沢だとか能登半島だとか。細かい雨が残り三上山は見えない。時折思いだしたような風が吹いていた。シャッターが降りた小屋、前のちょっとした空き地にクルマを止めて、雨が止むのを待っていた。と、軽トラがやってきて、男性が降りてきた。これは悪いことをしたな、それより先に男性は不思議そうな顔をして「どちらさんですか」。
ここで写真を…というまでもなく、相手は事情を察したらしく、「ああいいですよ、台風でどないなっているかを見に来ただけやから」と一回りして、またブイーンと行ってしまった。あとになって考えると、誰か知らんやつが自分を尋ねて小屋へやってきて、シャッターが閉まっているから途方に暮れていると思ったらしい。まじまじと顔を見て、相手が見ず知らずのオジイだと分かってすぐ意味を察したのだろう。
雨はいつの間にかやんでいた。一陣の風がイネの上を走る。琵琶湖はまだ冥い。
写真ステージ 「近江富士」
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